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2025.06.11
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【 目次 】
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親の死後、遺品の中から借金の督促状が出てきて「もしかして借金があるのでは」と不安になる方は少なくありません。また、「財産争いに巻き込まれたくない」「不要な財産は引き取りたくない」といったケースもあるでしょう。
そんなときに検討してもらいたいのが「相続放棄」です。この記事では、自分で相続放棄を行う際にかかる費用や必要書類、手続きの流れから注意点までわかりやすく解説します。司法書士や弁護士に依頼した場合の費用や対応の違いについても紹介し、「自分で行うべきか、それとも専門家に依頼すべきか」を判断するための具体的な材料をお届けします。
相続放棄とは、親や配偶者などの財産を引き継がずに放棄することを指す言葉です。相続放棄は「借金を相続したくない」といった理由で選ばれるケースが多い一方で、手続きには期限や書類の準備など、守るべきルールが細かく定められています。
ここでは、相続放棄を検討するうえで知っておきたい3つの基礎知識をわかりやすく解説します。
相続放棄とは、亡くなった方(被相続人)の財産や借金を一切引き継がないという意思を、家庭裁判所に申し立てる制度です。この申し立ては「相続放棄の申述(しんじゅつ)」と呼ばれ、単なる口頭での意思表示や家族間の合意だけでは法的な効力は発生しません。法定相続人の対象とその優先順位は、以下のように決められています。
※第1順位:被相続人の子どもとその子(図:緑色枠内)➡第2順位:被相続人の両親(図:オレンジ枠内)➡第3順位:被相続人のきょうだいとその子(図:水色枠内)
申述が家庭裁判所に受理されると、法律上「はじめから相続人ではなかった」とみなされ、借金の返済義務などから完全に免除されます。ただし、申述には期限があり、「自己のために相続の開始があったことを知った日から3か月以内」に行う必要があります。この期限を過ぎると相続放棄が認められなくなるため注意しましょう。
手続きを忘れないように注意だホ!
相続放棄の手続きを始める前に、まず本当に放棄すべきかどうかを慎重に見極める必要があります。一般的に相続放棄は、プラスの財産よりもマイナスの財産(借金など)が多い場合や、相続によって不利益が生じると考えられる場合には検討の価値があるとされていますが、各人の状況によって放棄が適切かどうかの判断は異なります。少しでも判断に迷う場合は専門家に相談し、安易な結論を出すことは避けたほうが無難です。
相続放棄は以下の流れで手続きを行います。
1.必要書類の準備
申述書、戸籍謄本、被相続人の住民票の除票などを用意する。不備があると、手続きに遅れが出る可能性があり。
2.家庭裁判所へ申述書を提出
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、書類一式を郵送または直接提出。
3.家庭裁判所から照会書が届く
書類の内容に問題がなければ、家庭裁判所から「照会書」が送付されます。
4.照会書に記入し、返送する
記載内容を確認のうえ記入し、期限内に返送します。
5.家庭裁判所で審査・受理
照会内容に問題がなければ相続放棄が受理され、手続きは完了します。
このうち「2.家庭裁判所へ申述書を提出」は、「自己のために相続の開始があったことを知った日から3か月以内」に終える必要があります。期限を過ぎると放棄が無効になる可能性があるため、早めの判断と行動を意識しましょう。
手順を確認しておこう
相続放棄の申述には、家庭裁判所に提出する書類一式のほか、いくつかの添付書類が必要です。準備が不十分だと、手続きが受理されないおそれがあるため、事前に確認しておきましょう。主な必要書類とその取得先は以下の通りです。
・申述書(家庭裁判所の公式サイトや窓口で入手可能)
・被相続人の住民票の除票または戸籍附票(市区町村役場)
・被相続人の戸籍謄本一式(本籍地の市区町村役場)
※必要となる被相続人の戸籍謄本は、相続放棄の申述人が誰なのかによってその範囲が異なります。
・申述人の戸籍謄本(相続関係を証明するため)
合わせて必要となる費用も確認しておきましょう。
合計でおよそ【3,000〜4,000円】程度の費用がかかることが一般的です。なお、複数の戸籍を取り寄せる必要がある場合は、さらに金額が加算されることもあります。
相続放棄の手続きは、専門家に依頼せずに自分で進めることも可能ですが、自力で行う場合はメリットだけでなく、見落としやすいリスクもあります。ここでは、自分で相続放棄を行う際のメリットとデメリットについて解説します。
自分で相続放棄を行う最大のメリットは、費用を大幅に抑えられる点です。手続きを各専門家に依頼すると、司法書士で3〜5万円、弁護士で5〜10万円程度かかりますが、自分で行えば3,000〜4,000円程度に抑えられます。
また、多くのケースが郵送で完結するため、裁判所や司法書士事務所・弁護士事務所へ出向く必要がない点もメリットのひとつです。裁判所公式サイトでは申述書の記載例(※)が公開されており、それを参考に進めれば書類の作成も難しくありません。
ただし、自分で対応するには手続き内容を正確に理解し、期限を厳守することが前提です。 「費用を抑えたいから」と安易に判断するのではなく、自分の知識や状況に応じて慎重に進める必要があります。
※参考|裁判所【相続の放棄の申述書(成人) / 書式の記入例】
自分で相続放棄を行う場合、最も注意すべきなのは書類の不備や提出期限の確認もれです。申述書の記載ミス、戸籍謄本の不足、照会書の返信遅れなどが原因で、申述が受理されない事例も実際にあります。
さらに、相続放棄には「相続があったことを知った日から3か月以内」という法定期限が定められており、原則として延長は認められません。そのため、期限を過ぎると放棄の手続きが無効となり、放棄したかった借金などの負債を相続してしまうおそれがあります。
費用面だけを考えると自分で手続きを進めるほうが魅力的に見えますが、手続きにミスが発生した場合はすべて自己責任となります。手続きに不安がある場合は、早めに専門家のサポートを受けたほうが確実です。
相続放棄のメリット・デメリットはこちらの記事でも詳しく解説!👇
相続放棄を自分で行う際は、制度の理解不足や誤解によって手続きに失敗することがあります。特に以下のような行動は「相続の意思があった」とみなされ、放棄が認められなくなる可能性があるため注意が必要です。
良かれと思って手伝ったことや、悪気なく進めた手続きのせいで相続放棄ができなくなる場合があります。相続放棄を自分で進める場合には、これらの注意点にも気をつけましょう。
相続放棄の手続きは自分でも行うことができますが、正確さや確実性を重視したい場合は、専門家に依頼する選択もおすすめです。特に「書類を集める時間がない」「制度が複雑で不安」といった方にとって、司法書士や弁護士によるサポートは心強い味方になるでしょう。ここでは、専門家に依頼した場合の対応の違いや費用の目安、依頼するメリットについて解説します。
司法書士と弁護士は、どちらも相続放棄のサポートを行うことができますが、対応できる範囲に明確な違いがあります。
司法書士は、申述書の作成や提出代行など、書類作成を中心とした手続きに特化しており、相続放棄が比較的シンプルなケースに向いています。一方で、相続人間のトラブルや借金の整理といった法的な交渉・代理が必要な場合は、弁護士でなければ対応できません。他の相続人と意見が対立している、相続財産に不明点が多いといった状況では、弁護士への依頼が適しています。
ご自身の相続放棄の内容がどちらに該当するかを見極め、専門家を選択しましょう。
困った時こそ専門家に相談するのが確実だホ!
専門家に相続放棄を依頼する際の費用は、依頼先や地域によって異なりますが、おおよその相場は以下の通りです。
司法書士への依頼:約3万円~5万円
弁護士への依頼:約5万円~10万円以上
これらの費用には、次のようなサポートが含まれるのが一般的です。
・相続放棄申述書の作成代行
・戸籍謄本など必要書類の収集代行
・家庭裁判所への書類提出代行
・照会書への対応に関するアドバイス
・電話やメールによる相談対応
なお、戸籍謄本の取得費用や収入印紙代などの実費は、報酬とは別で発生します。依頼前には、サポートの範囲や追加費用の有無をしっかり確認しておきましょう。
複数の弁護士に相談して費用を比較するのもおすすめだホ!
専門家に依頼する最大のメリットは、相続放棄に関する各種トラブルを未然に防げる点にあります。
具体的には、以下のようなリスクを避けることができます。
・申述書の記載ミスや添付書類の不足による手続きの却下
・申述期限(3か月以内)を過ぎてしまうことによる放棄の無効化
・財産を処分してしまい、「相続の意思あり」と判断されるケース
・相続人の範囲や戸籍内容に不備があり、再提出が必要になる手間
さらに、煩雑な書類の収集や家庭裁判所からの照会対応を代行してもらえることで、精神的な負担が大幅に軽減されます。仕事や育児などで忙しい方や、法的な手続きに不安がある方にとって、専門家への依頼は安心して任せられる選択肢といえるでしょう。
書類の不備や判断ミスがないという自信があったとしても、状況によっては自分で手続きをしない方が良いケースもあります。ここでは、専門家への相談を検討すべき代表的な3つのケースを紹介します。
相続放棄の手続きでは、申述書の作成や戸籍の収集、家庭裁判所とのやり取りなどが必要です。慣れていない人にとっては不安や戸惑いを感じやすく、「書類の書き方が合っているかわからない」「照会書にどう答えればよいか不明」といった場面に直面することもあります。
また、特に注意が必要なのは、相続放棄には「3か月以内に申述しなければならない」という厳しい期限があることです。不安を感じながら進めるよりも、早めに専門家へ相談することで、手続きのミスや遅れを防ぎ、精神的な負担も軽減できます。
相続人が複数いる場合や、すでに遺産分割で対立の気配がある場合は、専門家への相談をおすすめします。「自分は放棄したのに他の相続人からクレームが来た」「勝手に財産を処分された」など、トラブルが深刻化・複雑化するケースが多いからです。
また、他の相続人が放棄するかどうか分からない、連絡が取れない相続人がいるといったケースでは、弁護士による法的対応が必要になることもあります。こうした事態に備える意味でも、専門家への依頼は有効です。
相続財産の内容が不明確だったり、借金や保証債務の有無に不安がある場合は、「放棄すべきかどうか」の判断自体が難しくなります。特に、不動産や名義変更、保証人の立場が関わるケースでは、法律的な影響が複雑化することも少なくありません。
「プラスの財産があるかもしれないけれど、リスクも…」という状況での判断は、自力では限界があるでしょう。相続財産の調査や法的影響の確認までサポートしてくれる専門家に相談することで、後悔のない選択がしやすくなります。
相続放棄は、書類の不備やスケジュールの遅れ、照会書への対応忘れなどの些細なミスが重大なトラブルにつながることがあります。また、手続きには期日があるため、自分で相続放棄を行う場合は余裕をもって正確に進めることが重要になります。
ここでは、手続き前や書類提出前に確認しておきたいポイントをリスト形式でまとめました。セルフチェックにぜひご活用ください。
✔ 申述書に誤記や記載漏れはないか
氏名・続柄・住所・申述理由などが正しく記載されているか、記入例を参考にチェック。
✔ 必要書類がすべて揃っているか
被相続人の戸籍、住民票の除票または戸籍附票、自分の戸籍謄本など、抜けがないかを確認。
✔ 提出先の裁判所ごとの郵便切手の金額を確認したか
裁判所ごとに金額や組み合わせが異なるため、公式ページで内容を確認。
✔ 「相続を知った日」から3か月以内に手続きを完了できるか
起算日を明確にし、戸籍の収集・書類作成・照会書の対応を含めたスケジュールを確保。
✔ 照会書が届いた際の対応を想定しているか
回答に迷ったときの相談先を決めておき、返送期限を見逃さないように準備。
✔ 他の相続人と放棄の意志やタイミングを共有しているか
家族間での認識のズレによるトラブルを避けるため、必要に応じて情報共有。
✔ 不安がある場合の相談先を把握しているか
法テラスや司法書士・弁護士への相談方法を事前に確認しておく。
Q. 手続きの資料は郵送と持参、どちらが良い?
A. 郵送が一般的ですが、不安がある場合は家庭裁判所に持参し、窓口で確認する方法もあります。
Q. 照会書に「理由」を書く際、どのように書けばいい?
A. 「借金があるため」「負債の内容が不明なため」など、簡潔で率直な表現で問題ありません。
Q. 家族全員が放棄したい場合、代表者がまとめてできる?
A. 相続放棄は相続人ごとに個別で申述する必要があります。代表者による一括申請はできません。
これらのポイントを押さえておけば、自分で相続放棄の手続きを進めることも十分可能です。とはいえ、不安がある場合や時間に余裕がないときは、早めに専門家へ相談することが確実な対策といえるでしょう。
相続放棄の手続きは、自分で対応することも可能ですが、制度を正しく理解しないまま進めると、些細なミスが重大なトラブルにつながることがあります。不安がある、判断に迷っている、または家族間にトラブルの兆しがあると感じたら、専門家に相談することで手続きの正確性と安心感が得られます。後悔しないために、まずは一度立ち止まり、自分にとって最適な方法を選びましょう。
1.塩澤彰也法律事務所 / 塩澤 彰也弁護士(東京)
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2.紀州石原法律事務所 / 石原 詢二 弁護士(和歌山)
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