Lawyers Column

2025.07.14

パワハラで会社都合退職にできる?証拠・交渉・相談先まで徹底解説

賢く退職!

※この記事は、中越経営法律事務所 中越 琢人弁護士が監修しています。

パワハラを理由に退職する際、「会社都合にできるのか」どうかはその先の転職活動において大きなポイントになります。なぜなら、会社都合退職と認められると、失業給付をすぐに受け取れたり、受給期間も長くなったりと、自己都合退職と比べて大きなメリットがあるからです。

しかし、会社都合退職にするにはいくつかの条件や抑えておくべきポイントがあります。

本記事では、会社都合退職の条件や証拠の集め方、会社との交渉術、ハローワークでの手続きなどを詳しく解説します。パワハラに悩んでいる方が、納得のいく形で退職し、次のステップへ進めるようサポートすることに加え、会社の人事担当者の適切なパワハラの理解の促進、不当な退職勧奨や解雇の抑制になれば幸いです。

パワハラで退職する場合、会社都合にできるのか?知っておくべき5つのポイント

パワハラが原因で退職する場合、一定の条件を満たせば会社都合退職として認められます。会社都合退職の場合、失業給付の受給開始が早まる受給期間が長くなるなどのメリットがありますが、会社側が認めないといったケースも少なくありません。

この章では、会社都合退職になる条件や適用事例、交渉方法について詳しく解説します。

まずは、「会社都合退職」と「自己都合退職」の違いを確認しましょう。

会社都合退職と自己都合退職の違い

会社都合退職と自己都合退職では、以下のような違いがあります。

このように、会社都合退職の方が失業給付の受給条件において有利になります。しかし、会社都合退職にする場合は、適切な証拠を集めるなどして、会社に認めてもらう(会社都合退職の許可をもらう)必要があります。

会社都合退職は「仕方なく辞めた」っぽいニュアンスだホ!

会社都合退職にした場合の〈従業員側〉のメリットとは?

会社都合退職のメリットを整理してみましょう。

・失業給付がすぐにもらえる(自己都合退職の場合は3か月の給付制限あり)
・給付日数が長い(勤続年数によっては最大330日
・企業都合での退職と認定され、再就職への影響が少ない
・早期再就職時に「再就職手当」がもらえる(ボーナスのような給付)
・社会的信用を維持しやすい(退職理由がネガティブに見えにくい)

このように、パワハラを理由とした会社都合退職が認められれば、従業員側には、金銭面だけでなく、再就職や社会的信用などの面でもメリットがあります。

会社都合退職が認められる条件と適用されるケース

パワハラを理由に退職したいと考えている場合、以下のいずれかに該当すると、会社都合退職として認められる可能性が高くなります。

・上司・同僚からの継続的な嫌がらせ証明できる(暴言・暴力・無視など)
・パワハラが原因で健康被害を受けた診断書がある
・会社がパワハラを放置した証拠がある(社内相談後も対応なし)
・退職届を提出する前に、ハローワークや労働基準監督署に相談している

会社に申し出る場合にも、これらの証拠を集めたうえで主張すると、より会社都合退職の希望が通りやすくなります。

会社側の人事担当者も、パワハラの端緒を認識したら、社内調査にあたって上記の視点を持ちながら、公平性をもって継続的に従業員とコミュニケーションをとることが重要です。

会社が認めない場合の対処法

証拠を持って申し出をしても、会社側から「自己都合退職にしてほしい」と言われるケースも少なくありません。

会社と戦うことに不安を感じる方もいるでしょうが、落ち着いて以下のように対応を進めましょう。また、会社側の人事担当者も事実関係が曖昧なまま対応方針が決められないこともあろうかと思いますので、同様に参考にしていただき、場合によっては専門家に証拠の見直しを相談されるべきです。

対応の進め方

  1. 証拠を整理し、会社に再度交渉する(メール・録音・診断書など)
  2. 会社が認めない場合でも、退職届に「会社都合退職を希望」と明記する
  3. 労働基準監督署や労働局に相談し、調査を依頼する
  4. ハローワークで会社都合退職の申し立てを行う

もし、交渉の過程で会社側に応じる気配がない場合、従業員側は、退職届提出前であってもハローワークなどへ相談を始めていきましょう。

会社が否認するからといって諦めることはないホ!

ハローワークで会社都合退職と認められる方法

仮に、会社側が「自己都合退職」を主張した場合でも、社内調査や証拠を見てパワハラが原因と認められれば、ハローワークで会社都合退職と認定されるケースもありますので安心してください。流れは以下の通りです。

  1. 退職後できるだけ早くハローワークへ行く
  2. パワハラの証拠を提出する(メール・録音・診断書・退職届など)
  3. 理由が「会社都合」に該当するか確認してもらう
  4. 認められれば、自己都合から会社都合退職へ変更可能

ハローワークは会社の言い分ではなく、証拠をもとに判断します。客観的な証拠をしっかり揃え、諦めることなく相談をすることが重要です。

そもそもパワハラとは?知っておくべき2つの重要事項

パワハラを理由に退職を考えるなら、まずはパワハラの正しい定義を理解することから始めましょう。よくありがちな、「厳しい指導」と「パワハラ」の違いも明確にしておくと交渉の際にも有利です。この章では、パワハラの法律上の定義・種類と、正当な指導との違いについて解説します。

パワハラの法律上の定義と6つの種類

パワーハラスメント(パワハラ) とは、職場において優位な立場を利用し、業務の適正な範囲を超えて相手に精神的・身体的苦痛を与える行為です。厚生労働省は、パワハラを以下の6つの類型に分類しています。

  1. 身体的な攻撃(暴力)
    例:殴る、蹴る、物を投げつける など
  2. 精神的な攻撃(暴言・人格否定)
    例:「お前は無能だ」「給料泥棒」といった暴言、長時間にわたる執拗な叱責
  3. 人間関係からの切り離し(孤立・仲間外れ)
    例:会議や業務連絡から意図的に除外する、挨拶しても無視される
  4. 過大な要求(業務の押し付け)
    例:達成不可能なノルマを課す、明らかにキャパシティを超えた業務を与える
  5. 過小な要求(仕事を与えない)
    例:役職者なのに単純作業ばかりさせる、戦力外扱いし、仕事を取り上げる
  6. 個の侵害(プライバシーの侵害)
    例:家族構成や恋愛事情をしつこく聞く、自宅まで押しかける、監視する

これらの行為が「業務上必要かつ相当な範囲を超えている」場合、パワハラと認定される可能性があります。

パワハラと正当な指導の違い

一方で、すべての厳しい指導がパワハラに該当するわけではありません。適正な指導はパワハラには該当しないため、違いを理解しておきましょう。

パワハラと正当な指導の違いを判断するポイントは以下の通りです。

例えば、「仕事のミスを指摘する」「ルール違反を注意する」 といった指導は適正な範囲内ですが、「何度も同じミスを責め続ける」「人前で恥をかかせるような言動をする」 といった行為は、パワハラと判断される可能性があります。

パワハラと指導の違いを理解し、証拠を集める際には「業務上の指導ではなく、不適切なハラスメントだった」ことを示せるようにしましょう。

感じ方は人それぞれだけど、客観視することも重要だホ

会社都合退職を勝ち取るための進め方

パワハラを理由に退職する際、会社都合退職として認められるためには、正しい手順を踏むことが重要です。証拠を集め、交渉を進め、必要に応じて外部機関を利用すれば、会社都合退職として認められる可能性が高まります。
この章では、会社都合退職を勝ち取るための具体的な進め方を解説します。

会社都合退職を証明するための証拠

会社都合退職を主張するには、パワハラの事実を証明できる客観的な証拠が必要です。
以下のような証拠を集めておきましょう。

  • 音データ(上司の暴言や嫌がらせの音声)
  • メール・チャットの履歴(パワハラ発言や指示の記録)
  • 日記・メモ(パワハラの日時・内容を詳細に記録)
  • 診断書(精神的・身体的被害を証明する医師の診断書)
  • 同僚や第三者の証言(職場の状況を証明できる人の証言)

証拠が多いほど、社内調査やハローワークや労働基準監督署での交渉がスムーズになります。 事前にできる限り証拠を集め、退職時に困らないよう準備しておきましょう。

証拠を集める際のポイントと注意点

証拠を集める際は、次の点がポイントです。

  1. できるだけリアルタイムで記録を残す
    パワハラを受けた直後に録音やメモを残すと、信憑性アップ!
  2. 改ざん・削除されないように保管する
    メールや録音データは会社のPCではなく、自分のスマホやクラウドに保存。
  3. 診断書を取得する場合は「パワハラが原因」と明記してもらう
    「職場環境によるストレス」といった具体的な表現があると、より効果的!
  4. 社内の相談窓口に記録を残す
    人事や労働組合に相談した履歴があれば、会社がパワハラを放置していた証拠に。

これらの証拠などが、パワハラがあった事実の証明に繋がります。

せっかくの証拠が消えないように注意だホ!

会社への伝え方と交渉のコツ

会社に「会社都合退職」を認めさせるためには、交渉の進め方が重要です。
交渉を成功させるポイントは以下の通りです。

  1. 最初の相談はメールで行う
    口頭での相談では証拠が残らないため、「パワハラが原因で退職を考えている」ことをメールで伝える。
  2. 証拠を提示しながら話す
    録音やメール履歴をもとに、具体的な事例を示し「パワハラを受けた事実」を伝える。
  3. 会社都合退職を希望する理由を明確に伝える
    「自己都合退職ではなく、会社都合退職を求める正当な理由」をはっきり主張する。
  4. 感情的にならず、粘り強く交渉する
    強く主張しすぎると対立が深まるため、冷静かつ論理的に進める。

言った言わないを避けるためにも、記録に残る形で主張を行い、冷静な態度で交渉に臨みましょう。会社側がすぐに認めなくても、粘り強く続けることも重要です。

また、会社側も、証拠の評価について、社内調査の過程などで社内の意見が分かれる場合、専門家に相談するようにしましょう。

会社が拒否した場合の対処法

会社が「自己都合退職にしてほしい」と主張してきた場合の対応方法も、あらためて確認しておきます。

  1. 退職届に「会社都合退職を希望」と記載する
    会社が自己都合退職を主張しても、退職届に明確に記載しておくことで証拠になる。
  2. 労働基準監督署や労働局に相談する
    会社がパワハラを放置し、会社都合退職を拒否する場合は、労働基準監督署に報告する。
  3. ハローワークで会社都合退職の申し立てを行う
    証拠を提示し、ハローワークで会社都合退職の認定を受ける。
  4. 弁護士に相談する
    会社が強硬に拒否する場合、法的手続きを検討する。

会社は組織として対応するため、個人の力では限界がある場合もあります。外部機関を利用しながら、不利な条件で退職しないよう交渉にあたりましょう。

労働基準監督署・弁護士など相談機関の活用方法

必要な支援に応じて、相談する窓口は異なります。以下に相談内容別の窓口を紹介します。

有料の弁護士などは少しハードルが高いですが、まずは労働基準監督署やハローワークなど身近な窓口を活用し、有効なサービスを見つけていくことがおすすめです。

退職後にやるべき重要な2つの手続き

無事に会社都合退職を勝ち取った後も、適切な手続きをしなければ、失業給付社会保険の継続に支障が出る可能性があります。特に 「退職時に受け取るべき書類」「失業保険の申請」 は、早めに手続きを進めることで、生活への影響を最小限に抑えられます。

この章では、退職後に必要な2つの重要な手続きについて詳しく解説します。

退職時に受け取るべき書類とは?

退職後の各種手続きをスムーズに進めるために、会社から以下の書類を必ず受け取りましょう。

離職票の発行には通常1〜2週間かかるため、余裕をもって確認しておくことが大切です。書類の発行が遅れている場合は、人事担当者に連絡し早めの発行を依頼しましょう。

失業保険を受給するための手続き

会社都合退職の場合、失業保険の受給開始が早くなるため、速やかに手続きを進めることが重要です。
失業保険を受け取るための手続きの流れは以下の通りです。

  1. ハローワークに行く
    退職後、管轄のハローワークへ行き、手続きを開始する
  2. 必要書類を提出する
    ・離職票(1・2)
    ・マイナンバーカード or 本人確認書類
    ・雇用保険被保険者証
    ・印鑑
    ・振込先の通帳 or キャッシュカード
  3. 求職活動の登録を行う
    ハローワークで求職申込みを行い、仕事を探していることを証明する
  4. 失業認定を受ける
    1回目の失業認定を受けた後、7日間の待機期間を経て、基本手当(失業給付)の支給が始まる

会社都合退職の場合、3か月の給付制限がなく、退職後すぐに給付を受けられるのが大きなメリットです。ただし、ハローワークの指示に従い、定期的に求職活動を行わないと給付がストップする可能性がある点は注意しましょう。

まとめ

パワハラが原因で退職を考えているなら、基本を押さえて冷静に行動することが大切です。
証拠を確保し、適切な手続きを踏めば、会社側の主張に関係なく、会社都合退職として認められる可能性がありますので粘り強く交渉を続けましょう。

合わせて、自身の心のケアも大切にしてください。対応の過程では、想像以上のストレスを感じる場面があるかもしれません。 一人で抱え込まず、信頼できる人や専門機関に相談するなど心の健康にも気を配りましょう。自分を大切にしながら、前向きに次の一歩を踏み出してください。

また、会社側も、不当な退職勧奨や解雇に踏み切ってしまうと、経済的な不利益を被ることがあります。従業員と継続的なコミュニケーションの過程で、証拠の評価などで社内の意見が分かれる場合は、外部の専門家に速やかに相談できるようにしましょう。

【労働問題】でお悩みの方は弁護士への相談も検討を!

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