Lawyers Column

2025.06.30

医薬品の個人輸入:賢く安全に利用するための完全ガイド

海外の薬って効くの?

「海外の医薬品やサプリメントの個人輸入って実際どうなの?」と薬局で相談されることが増えています。「コストを抑えたい」「日本で手に入らない製品を試したい」「インフルエンサーがおすすめしていた」様々な理由で購入を検討されている方がいるかと思います。
しかし、一方で、「偽物が届くのでは?」「法律に違反しないか?」といった不安が強く、購入しない方もいらっしゃいます。

この記事では、個人輸入のメリットとリスクについて解説します。今回の記事を確認し、正しく個人輸入を行うようにしましょう。

医薬品の個人輸入が注目されるワケ

X(旧Twitter)やInstagram、TikTokなどのSNSを中心に、市販薬や処方箋医薬品(医師による処方が必要な医薬品)の個人輸入が注目を集めている背景には、どのような事情があるのでしょうか。

理由①:日本で販売されていない薬やサプリメントが手に入るから

日本では、医薬品の製造や販売に厳格な規制があり、厚生労働省の承認を受けていない薬を国内で入手することはできません。しかし、国内では未承認でも、海外では一般的に使用されている医薬品は数多く存在します。これは、日本での承認手続きが遅れていることや、日本独自の基準で承認が下りないことなどが原因のためであり、こうした背景から、国内で手に入る薬と手に入らない薬の差が生じています。

しかし近年は、SNSやインターネットの普及により、日本では流通していない薬の存在が広く知られるようになりました。「好きな芸能人が飲んでいるから」「インフルエンサーが愛用しているから」といった理由から、国内未承認の薬を入手したいと考える人が増えており、国内未承認の薬を手に入れる手段として「個人輸入」を選ぶ人が増えているのが現状です。

個人輸入のおかげで、日本で手に入らない薬を直接海外から取り寄せることが可能となり、自分の健康ニーズに沿った選択肢を広げられると共に、現地に行かなくても流行りの製品を手にすることも可能になっています。

世界中の薬が手に入りやすくなったんだホ!

理由②:日本より安く・手軽に手に入るから

個人輸入の大きな魅力の一つは、医薬品を安く手に入れられることです。日本では高額な医薬品やサプリメントでも、海外では驚くほど安価で販売されていることが多く、病院や薬局に行くための診察費用や移動コストを考えると、同じような薬を個人輸入した方が楽だと考える人がいるのも無理はありません。

もちろん、個人輸入はあくまで海外からの取り寄せになるため、保険が適用されないことや送料などを考慮する必要がありますが、利用する人にとっては価格の安さだけでなく、受診をせずに医薬品を入手できる手軽さも大きな魅力なのでしょう。

個人輸入に付きまとう不安

魅力的な面も多い個人輸入ですが、利用するにはまだ不安な点が多く存在します。偽造品や法律の問題など、個人輸入の気になる疑問点について解説します。

偽物が販売されていることはある?

個人輸入の最大のリスクは、偽造品や粗悪品が届く可能性です。実際に、製薬会社4社(ファイザー、バイエル、日本新薬、日本イーライリリー)によるED(勃起不全)治療薬の個人輸入に対する合同調査が過去に行われた際、個人輸入向けとして出回っている治療薬のうち、約40%が偽造品であるという結果が出ており、偽造品には特に注意が必要です。

偽造品を購入・服用してしまった場合の主なリスクは以下の通りです。

・有効成分の過多による副作用のリスク
表示と異なる有効成分が含まれる
危険ドラッグ指定薬物が含まれる
異物混入
・成分が含まれていない

日本で未承認の薬を服用し、万が一副作用等が現れた際に、「成分が不明」「日本では使用経験のない成分だった」などの場合には、病院へ行っても適切に対処してもらえない可能性もあることに注意が必要です。

せっかく買ったのに有効成分が入ってないなんて…

個人輸入は、法律上は問題ないの?

大原則として個人輸入は「購入者本人の個人的な使用」であれば違法ではありません。そのため、他人に譲ったり、販売したりすることはNGです。また、家族のためにと購入するのもNGです。

加えて、個人輸入にもルールが存在します。ルールを守れば地方厚生局に必要書類を提出し、薬事法に違反する輸入でないことの証明を受ける必要はありません。次の章でルールを紹介するので確認してください。

知っておきたい個人輸入の基礎知識

個人輸入にはいくつかのルールがあり、また医療用医薬品(医師の処方が必要な医薬品)や外用薬その他の医薬品医薬部外品でルールが異なっています。「輸入者本人の個人使用」が大前提として存在するため、ルールを逸脱した輸入は税関でストップしてしまう可能性があります。また、1回の量が適切でも、利用回数が多い場合には同様にストップしてしまう可能性があるので注意しましょう。

個人輸入のルール

医療用医薬品(例:処方箋が必要な抗がん剤や糖尿病治療薬)の個人輸入には、特に慎重な対応が必要です。以下のルールを守りましょう:

輸入量の制限

①医師の処方が必要な医薬品(処方箋医薬品) ⇒ 1か月分 / 1回
②化粧品等も含む外用薬 ⇒ 24個 / 1回
③その他医薬品、医薬部外品 ⇒ 2カ月分 / 1回

禁止、規制成分

麻薬や向精神薬、覚せい剤、覚せい剤原料、大麻、大麻の種子、指定ドラッグ等

前述した内容ですが、自己判断での使用は危険です。必ず医師や薬剤師に相談し、保険診療ないで対処できないのか確認してから個人輸入を検討してください。日本未承認の薬は、国内の医療機関でのフォローアップが難しい場合があるので、リスクを考えて行動してください。

実際にあった健康被害

個人輸入のリスクを理解するために、実際に報告された健康被害の事例を見てみましょう。

事例①:ダイエットを謳うサプリ・医薬品による健康被害例

「ホスピタルダイエット」と称される製品を使用した人たちから、多種多様な副作用(疑い)の報告がありました。

・副作用一例:死亡、動悸、ふらつき、意識もうろう、四肢の麻痺、手足の震え、悪心、嘔吐(嘔気)、排尿困難

手元に残った錠剤やカプセルの成分を解析した結果、向精神薬抗うつ薬便秘薬利尿剤といった複数の医薬品が使用されており、総合的に副作用が生じてしまった可能性があります。必ずしも「ホスピタルダイエット」と称される製品が原因とは言えませんが、医療用医薬品の成分を知らぬ間に摂取してしまっているのは注意が必要です。

事例②:ED(勃起不全)治療薬での健康被害例

精神増強を謳う製品やED(勃起不全)治療薬の名前(シアリス錠)で個人輸入した医薬品・サプリメントを使用した際に、死亡昏睡をはじめとした重篤な健康被害が発生しています。

・副作用一例:けいれん、意識低下、多臓器不全、血栓症、昏睡、死亡

「製品名:シアリス錠(成分名:タダラフィル)」が日本で使用されている医薬品です。ですが、個人輸入した医薬品の有効成分は「シルデナフィル」であり、異なる医療用医薬品の成分が含まれている事例もあります。同じED治療薬ですが、治療で用いられる用量を超えた濃度が含まれており、重篤な副作用に繋がったと考えられます。

個人輸入はリスクと隣り合わせ

個人輸入のメリットは大きいですが、リスクも無視できません。ここでは特に注意してほしい3つのポイント「自己責任」「効果の有無」「対処法が不明」について紹介します。

注意点①:副作用があっても自分の責任

個人輸入した医薬品やサプリメントで副作用が起きた場合は、自己責任となります。「医薬品副作用救済制度」という制度もありますが、この制度は医師による処方が必要な医薬品や市販薬(薬局などで購入できる医薬品)を指示通りに適正に使用した場合に適応される制度です。

国内未承認の薬には、それなりの理由があるからこそ承認が下りていないのです。そのため、国内で承認されていない薬を使う場合は、万が一のことがあっても国内で適切な対処をしてもらえるとは限らないことを念頭に置いておきましょう。

注意点②:本当に効果があるかは使ってみないと分からない

個人輸入で手に入る薬の中には、表記と異なる成分が含まれている可能性もあるとお伝えしました。しっかりと効果を感じられた場合は、日本で使用される有効成分と同じものが同一量が含まれていることが推測されますが、「プラセボ効果(プラシーボ効果)」と呼ばれる、成分が入っていないただの錠剤でも効いたように感じることもあるので油断はできません。

また、有効成分が入っていたとしても、分量が多すぎたり、その症状には適さない有効成分が入っていたりする場合(例:鼻炎薬なのに、関節痛に効く有効成分しか含まれていなかった、など)もあり、こうした場合はむしろ副作用が生じてしまうでしょう。

結論として、効果があるかどうかは使用しないと分からないのが、個人輸入の不安な点です。また、効果がある場合でも、日本のように一定基準以上の品質・有効性・安全性が確かめられて製造されているかは不明です。不衛生な環境下で製造されている可能性もあることは理解しておくとよいでしょう。

自己責任って言われると怖いホ…

注意点③:副作用が発症した際の対処方法が不明

個人輸入品で副作用が起きた場合、かかりつけの医療機関等での対処が難しい場合があります。一般的に、お薬手帳やマイナ保険証の情報から服用している医薬品が分かる場合には、医療機関での適切な対処が可能です。しかし、個人輸入の場合、自己判断で服用を開始するケースがほとんどのため、かかりつけ医や薬剤師、救急搬送先の病院で正確に情報を把握することができません

そのため、「なぜこの症状が発生したのか」が全く分からない状態で対応しなければならず、処置も遅れますし、処置したところで治るとも限りません。また、個人輸入品が原因だと分かっていても、含まれる成分が未知・偽造品の場合は処置が意味をなさない可能性もあります。完全にお手上げになることは少ないですが、個人輸入の医薬品を服薬する際は、十分に注意が必要です。

まとめ|不安がある際は医師・薬剤師に相談を

医薬品やサプリメントの個人輸入は、コスト削減や選択肢の拡大という大きなメリットがあります。しかし、偽造品健康被害法律違反のリスクも隣り合わせです。安全に個人輸入を行うためにも、最後にポイントを再確認しましょう。

・法律を遵守する:輸入量や禁止成分のルールを事前に確認
・どうしても服用したい場合は専門家に相談する:医師や薬剤師に相談し、保険診療の範囲内で対応できないか確認
・指示通りに使用する:初めて服用する場合は、説明書の用法用量を守って服用する
・異常があった場合はすぐに医療機関を受診する

個人輸入は、みなさんの健康管理をより自由で主体的なものにするツールです。しかし、重大な副作用は最悪の場合、死につながってしまう可能性もあります。信頼できる情報と専門家の助言を活用し、賢く利用しましょう。もし不安な点があれば、近くの薬剤師や医療機関に気軽に相談してください。

最後に、繰り返しになりますが、安全な個人輸入は存在しません。リスクと隣り合わせです。今回は大丈夫でも、次回は偽造品なんてことも考えられます。美容やダイエット目的、趣味嗜好の範囲での医薬品使用は個人的にはオススメできませんが、少し高いお金を払ってでも自由診療や市販薬で実践することをオススメします。

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Writer

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トリス(薬剤師T)

薬局で知りたい・聞きたい情報を発信中

元MR、現在は調剤薬局薬剤師とWebライター
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