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2025.06.11
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※この記事は、プロスパイア法律事務所 光股 知裕 弁護士が監修しています。
「結婚を前提に真剣な出会いを探していたのに、相手が実は既婚者だった」
「何ヶ月もメッセージのやり取りをして付き合った彼が、家に帰れば妻と子供のいる父親だったなんて」
近年、マッチングアプリの普及に伴い、このようなトラブルが急増しています。多くのアプリは「安心」や「安全」を謳い、本人確認などの対策を講じていますが、それでも既婚者が独身と偽って紛れ込んでいるのがリアルな実情です。
しかし、感情のままに相手を責めたり、SNSなどのメディアで晒したりしてしまうと、逆にあなたが不利になってしまう可能性もあります。まずは冷静になり、法的にどのような請求ができるのかを知ることが、自分自身を守り、相手に正当な制裁を与えるための第一歩です。
この記事では、マッチングアプリで既婚者に騙された場合に慰謝料を請求できる条件や、肉体関係の有無による違い、そして泣き寝入りしないために今すぐ集めるべき証拠について、法律の知識を交えて詳しく解説します。

結論から申し上げますと、マッチングアプリで相手に嘘をつかれたからといって、すべてのケースで慰謝料請求ができるわけではありません。「嘘をつかれたこと」自体は道徳的に許されない行為ですが、日本の法律において損害賠償(慰謝料)が認められるためには、あなたの「法的に保護される権利」が侵害されたかどうかが重要になるからです。
単に「独身だと嘘をついて食事をした」「数回デートを重ねた」という段階では、法的な慰謝料請求は非常に難しいのが現実です。裁判所の考え方としては、男女間の駆け引きや嘘は、ある程度は自由恋愛の範疇として処理される傾向があるためです。「貴重な時間を無駄にした」という精神的苦痛は非常に大きいものですが、それだけで金銭的な賠償を命じる判決を得るのはハードルが高いと言わざるを得ません。友達としての関係や、また会う約束をした程度では、法的な責任を問うには不十分だと判断されてしまいます。
しかし、諦めるのはまだ早いです。相手の嘘が悪質であり、あなたの人生に重大な影響を与えたとみなされる場合、つまり「一定のライン」を超えた場合には、高額な慰謝料請求が可能になります。
では、その「ライン」とはどこにあるのでしょうか。慰謝料請求ができるかどうかの最大の判断基準は、以下の2点です。
法律上、私たちは「誰と性的関係を持つか」を自分で決める自由(性的自由・貞操権)を持っています。また、「誰と結婚するか」という期待も保護されるべき権利です。そのため、既婚者が独身と偽ることで、これらの権利を侵害したとみなされれば、それは不法行為となり、慰謝料請求の対象となります。ここからは、具体的な状況(ケース)ごとに、請求の可否と戦い方を解説していきます。
なかなか裁きづらいのが現実なんだホ…

もしあなたが、相手を独身だと信じて肉体関係を持ってしまっていた場合、慰謝料請求ができる可能性は非常に高くなります。これは法律用語で「貞操権侵害(ていそうけんしんがい)」と呼ばれます。
一般的に、既婚者と肉体関係を持つことは「不倫(不貞行為)」と呼ばれます。しかし、これは「相手が既婚者だと知っていた場合」の話です。あなたが相手を独身だと信じ込まされ、騙された結果として関係を持った場合は、あなたは不倫の加害者ではなく、「貞操権を侵害された被害者」となります。
貞操権とは、「誰と性的な関係を持つかを、正しい情報に基づいて自分で決定する権利」のことです。「相手が既婚者だと知っていたら、関係を持たなかった」という場合、相手の嘘によってこの決定権を侵害されたことになるため、慰謝料を請求できるというわけです。特にマッチングアプリは、出会いを求める男女が利用するプラットフォームであり、多くの利用者は「独身であること」を前提にパートナーを探しています。そのような場で嘘をつく行為は、通常のナンパなどでの出会いと比較しても、より悪質性が高いと判断される傾向にあります。
貞操権侵害として慰謝料を請求するためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
最も重要なポイントです。マッチングアプリの場合、「プロフィールのステータスを『未婚』にしていた」「メッセージで『独身だよ』と言っていた」などがこれに当たります。聞かれなかったから言わなかったという「沈黙」よりも、積極的に嘘をついていた場合のほうが悪質性が高いと判断されます。
貞操権侵害は「性的自由」に対する侵害なので、肉体関係(性交渉)があったことが前提となります。キスやハグ、手をつなぐ程度では認められないことが一般的です。
ここが争点になりやすいポイントです。「相手が既婚者だと気づける状況だったのに、不注意で気づかなかった」とされると、『過失相殺』といって慰謝料が減額されたり、請求が認められなかったりすることがあります。例えば、「相手の家に一度も行ったことがない」「土日や夜間は絶対に連絡がつかない」「左手の薬指に指輪の跡があった」など、疑わしい事情があった場合は注意が必要です。
気付けたはずなのに気づかなかった、のは落ち度とみなされるんだホ…
貞操権侵害の慰謝料相場は、50万円〜300万円程度と幅があります。金額は以下のような要素で変動します。
請求の流れとしては、まずは証拠を固め、内容証明郵便で通知書を送るのが一般的です。相手も「会社や家族にバレたくない」という弱みを持っているため、裁判になる前に示談交渉で支払いに応じるケースも少なくありません。

「プラトニックな関係だった」「まだ会って数回で、体の関係はない」このような場合、騙されたショックは同じでも、法的な慰謝料請求は難しくなります。
前述の通り、肉体関係がない場合は「貞操権(性的自由)」が侵害されていません。そのため、法的には「独身と偽ってデートをした」という事実に留まります。裁判所は、恋愛の初期段階における駆け引きや嘘について、法が介入すべきではないという姿勢をとることが多いため、「精神的苦痛を受けた」と訴えても、金銭的な賠償までは認められないケースが多くみられます。「ただの友達として食事に行っただけ」と相手に言い逃れされてしまうと、それを覆すのは困難になります。
ただし、肉体関係がなくても、以下のような状況であれば請求できる可能性があります。
肉体関係がなくても、「結婚しよう」とプロポーズされ、親への挨拶を済ませたり、式場の予約をしたりしていた場合は別です。これは「婚約破棄」や「結婚詐欺」に近い扱いとなり、結婚への期待権を侵害されたとして慰謝料請求が可能になります。
「結婚後の資金を貯めよう」などと言われてお金を渡していた場合は、慰謝料という名目ではありませんが、「不法行為に基づく損害賠償請求」や「詐欺罪」としての被害届提出を検討すべき事案です。法律相談などを活用し、すぐに専門家に相談するべきでしょう。
請求できるかどうかはケースバイケース!

法的な慰謝料請求が難しい場合でも、泣き寝入りする必要はありません。相手に相応のペナルティを与える方法はあります。
既婚者が独身と偽ってマッチングアプリを利用することは、ほぼすべてのアプリで利用規約違反です。あなたが持っている証拠(既婚者であるとわかったやり取りや、本人の自白など)を添えて、アプリの運営会社に通報しましょう。運営が悪質だと判断すれば、相手のアカウントは「強制退会(アカウント凍結)」となります。
これにより、相手はアプリを使えなくなり、新たな被害者が生まれるのを防ぐことができます。金銭的なプラスにはなりませんが、相手の遊び場を奪うという意味では効果的な制裁でしょう。多くの利用者を守るためにも、勇気ある行動が必要です。
法的な慰謝料とは別に、個人間の交渉として「実費」の請求を行うことは可能です。「独身だと言われていたから会いに行った。嘘でなければ交通費も食事代も使わなかったのだから返してほしい」と伝えることには一定の理があります。相手も、トラブルが大きくなることを避けたい心理があるため、手切れ金として数万円〜数十万円程度の支払いに応じる可能性はあります。
ただし、「お金を払わないと会社にバラす」などと脅すと「恐喝」になるので、あくまで冷静に交渉することが大切です。
アプリ内の通報窓口への連絡はぜひやってみてもらいたいホ!

慰謝料請求をするにせよ、運営に通報するにせよ、最も重要なのは「証拠」です。相手が既婚者だとわかった瞬間、怒りで連絡先を消したり、ブロックしたくなるかもしれませんが、証拠がなければ相手に「そんなこと言っていない」「既婚者だと言ったはずだ」と逃げられてしまう可能性があるので、証拠集めは入念に行いましょう。
ではどのような証拠が有効なのでしょうか。一般的に下記のものは証拠として有効になる可能性が高いため、記録を残しておきましょう。
これが最強の証拠です。相手のプロフィールにある「未婚」「独身」というステータス表示、または自己紹介文の「真剣に結婚相手を探しています」といった記述などをスクリーンショットで保存しましょう。相手が退会したり、あなたをブロックしたりすると画面が見られなくなってしまうため、気づいた瞬間に撮るのが鉄則です。この証拠があれば、「相手は積極的に独身と偽っていた」という事実を客観的に証明できます。
LINEやアプリ内のメッセージで、「独身だよ」「一人暮らしだよ」「結婚したいね」といった発言があれば、これらも全て保存しましょう。日常的なやり取りの中にこそ、嘘の証拠が隠されているものです。
慰謝料を請求するためには、内容証明郵便を送る必要があります。そのためには、相手の「氏名」と「住所(または勤務先)」といった個人情報が不可欠です。もし、まだ下の名前やニックネームしか知らない場合は、それとなく本名を聞き出すか、以下の情報を集めておきましょう。これらがあれば、弁護士を通じて住所を調査できる可能性があります。
・電話番号(携帯番号)
・車のナンバー
・勤務先の名刺
・相手のSNSアカウント
貞操権侵害を主張する場合は、肉体関係があったことを証明するものが必要です。

最後に、この問題に取り組む上で絶対に知っておかなければならないリスクについてお話しします。特に「セカンドパートナー」といった言葉がメディアで取り上げられることもありますが、法律的には単なる「不倫」となるリスクが高いことに注意が必要です。
既婚者トラブルで最も怖いのが、相手の奥さん(または旦那さん)から「あなたが不倫相手として訴えられる」というパターンです。配偶者に不倫がバレた際、既婚者側が保身のために嘘をつくことがあります。「彼女も僕が既婚者だと知っていて誘ってきた」こう言われてしまうと、あなたは被害者ではなく「不倫の共犯者」として扱われてしまいます。そうなれば、逆にあなたへ数百万円の慰謝料請求が届くことになります。
この最悪の事態を防ぐためにも、前述したマッチングアプリの”未婚”プロフィール等の証拠が不可欠なのです。これがあれば「私は彼が独身だと信じていました。アプリにもそう書いてありました」と客観的に証明でき、不倫の故意(わざとやったこと)を否定できます。
また、「既婚者だと知った時点できっぱりと関係を絶つ」ことも重要です。「騙されていたのはショックだけど、好きだから別れられない」と関係を続けてしまうと、その時点から本当の不倫になってしまいます。そうなれば、もはや「騙された」という理由は通用しません。自分を守るためにも、事実を知ったら即座に連絡を絶ち、法的措置への準備に切り替えましょう。
怒りに任せて相手の会社に電話をしたり、実名を挙げてSNSなどのメディアに投稿したりするのは絶対にやめましょう。たとえ相手が悪くても、これらの行為は「名誉毀損」や「プライバシー侵害」、「業務妨害」といった犯罪になる可能性があります。あなたが逆に加害者として訴えられ、慰謝料を請求するための立場を失ってしまうことになりかねません。
自分の身を守るためにも早くお別れするのが重要だホ

マッチングアプリで既婚者に騙されたという事実は、あなたの尊厳を傷つける許しがたい行為です。しかし、感情的にならずに正しい手順を踏めば、慰謝料という形で償わせることは可能です。
重要ポイント
あなたには、騙された心の傷を正当な権利として主張する力があります。一人で悩みを抱え込まず、まずは弁護士相談などを活用し、専門家と共に次の一歩を踏み出してください。辛い経験を乗り越え、次は本当に安心できるパートナーとの出会いが訪れることを願っています。
ネットトラブル・SNSトラブルに注力している弁護士をご紹介!
1.弁護士法人プロテクトスタンス 仙台事務所 / 鎌田 祐介 弁護士(宮城県仙台市)
2.プロスペクト法律事務所 / 坂口 靖 弁護士(千葉県千葉市)
3.森江法律事務所 / 森江 悠斗 弁護士(東京都千代田区)
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