Lawyers Column

2025.04.02

誹謗中傷はどこから?罪に問われる可能性や開示請求の流れについても解説

ついつい使ってない?

SNSの普及で近年話題に取り上げられることが増えた「誹謗中傷」という言葉。広辞苑によると「誹謗」は「悪口を言うこと」、「中傷」は「無実のことを言って他人の名誉を傷つけること」という意味で記載されており、総じて、他人をけなしたり傷つけたりすることをさして誹謗中傷と言われています。

本記事では、身近なトラブルになりつつある誹謗中傷について、どこから誹謗中傷にあたるのか、また誹謗中傷はどのような罪に問われるのかなどを解説していきます。
現代では、思いがけず自分が加害者となってしまったり、被害者となる可能性もあるので、ぜひ最後までご覧ください。

誹謗中傷とは

誹謗中傷とは、特定の対象(人物、会社、お店など)に対して、侮辱したり嫌がらせなどをおこない、相手の名誉や人格を傷つける行為を指します。

直接的に相手に向かってこのような行為をおこなう場合もあれば、SNSや掲示板などを通じて間接的におこなったり、対象の名前を伏せているものの、明らかに誰(どこ)のことを指しているかわかる状態で相手が不快に思うことを書き込むことが増えています。

名前を出さなきゃOKなんてことはないんだホ!!

誹謗中傷はどこから?

誹謗中傷は、主に相手の心や精神を傷つける行為であるため、人によっては同じ言葉を言われたとしても、傷つく人と傷つかない人がいるでしょう。そのため、「どこからが誹謗中傷にあたるの?」と疑問に思われることも多くあります。

あくまでも誹謗中傷は「根拠のない悪口や嘘で相手を傷つけること」という前提なので、例えば、事実や根拠がないにも関わらず「Aさんは会社のお金を横領している」と社員に吹聴して回ったり、恋人に振られた腹いせに「Bさんに不倫されて捨てられた」と嘘をつくことなどがあげられます。

また、人以外にもお店を対象とした例もあり、「C洋食店で食べた料理からプラスチック片が出てきた」などと口コミサイトに書き込むことも誹謗中傷にあたります。

嘘をつくのは良くないホ…!

誹謗中傷にまつわる罪状

しかし、実は法律には「誹謗中傷罪」といった罪名はありません。後述しますが、誹謗中傷を罪に問う場合は「名誉棄損罪」「侮辱罪」、また誹謗中傷で会社やお店の業務を妨害した場合は「偽計業務妨害罪」などの罪状に代えられます。

名誉毀損罪

名誉毀損とは、「事実を摘示して、公然と他人の社会的評価を低下させること」を指す言葉です。基本的には、「公然の場で」あることが前提のため、例えば1対1でのやりとりの中で起きたトラブルの場合は名誉棄損が成立しないときがあるので注意が必要です。

さらに、名誉毀損の場合は「事実を摘示(指摘・あばくこと)」していることが要件に含まれるため、真実とは異なる事柄を持ち出し、具体的な悪意を持って相手の印象や評価・評判を貶めようとする発言・行為が名誉毀損にあたると言えるでしょう。

例えば以下のような発言は、真実ではない場合には名誉毀損にあたります。
・Dさんは上司に媚びを売っただけで、成果を出していないのに出世した。
・Eさんは元風俗嬢らしい。

事実が真実でないにもかかわらず、相手の評判を落とすことを目的とした発言をおこなった場合は名誉毀損罪に問われる可能性が高いでしょう。

名誉毀損罪の罰則は【3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する(刑法第230条)】と定められており、次に紹介する「侮辱罪」よりも重い罪となってます。

侮辱罪

侮辱罪とは「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した」際に適用される罪です。名誉毀損と侮辱罪は似ているものと捉えられがちですが、「事実を摘示」しているかどうかという部分が名誉毀損との違いになります。

「事実を摘示しない」ということは、『横領している』や『不倫している』などの具体的な例を出さずに、相手をけなす・貶める行為を指します。

例えば、「バカ」「チビ」「ブス」「クソ」などの表現は、相手に対して何らかの具体的な事実を提示せず、抽象的な表現で相手をけなしていますよね。こうした表現を使って相手をけなした場合に「侮辱罪」に問われることになります。

侮辱罪の罰則は【1年以下の懲役若し くは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は 拘留若しくは科料に処する(刑法第231条)】と定められており、ちょっと軽口を叩いただけのつもりだった、その場のノリでつい言ってしまった、などがないように気をつけましょう。

相手を傷つける発言はやめるんだホ…

偽計業務妨害罪

偽計業務妨害罪とは「虚偽の内容などを広めることでお店の営業を妨害した」際に適用される罪です。

偽計業務妨害罪も名誉毀損罪や侮辱罪と同じく、相手をけなす・相手に不利益を与える点では同じですが、対象となる相手が個人ではなく店舗や企業である点で異なります。

偽計業務妨害罪でポイントになる点は、虚偽の内容であるかどうかです。

例えば、飲食店で提供された「和牛100%ハンバーグ」が、実は和牛は10%ほどで、残りの90%は外国産の牛肉を使っていたという事実を偶然に知ってしまったとして、その事実を何らかの形で広めた場合は、罪に問われることはないでしょう。

しかし、本当に和牛100%のハンバーグを提供していたにも関わらず、「こんなのが和牛100%なわけない!このお店は嘘をついている!」とSNSや口コミサイト等に書き込んでしまった場合は、飲食店側が虚偽の書き込みのせいでその後の営業に大きな影響を受けてしまう可能性が高いため、偽計業務妨害罪にあたるといえます。

また、偽計業務妨害罪では、個人の感想として「ここの料理はおいしくなかった」と書き込むことは問題にはなりません。

しかし、「ここの料理はおいしくない。冷凍食品をレンジでチンして出している味だ。代金を払う価値もないからみんな行くべきじゃない」とまで書いてしまった場合は、その口コミがきっかけとなりお店の集客・営業に影響が出てしまうことが考えられるので、偽計業務妨害罪に問われる可能性が高くなるでしょう。

偽計業務妨害罪の罰則は【3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する(刑法233条)】と定められています。

お店の対応に不満があったり、味に満足できなかったりしたとしても、相手を貶めるような投稿・発言は控えましょう。

開示請求を行う場合の流れ

ネットやSNSが普及している現在では、面と向かって受ける誹謗中傷以外にも、ネット掲示板やSNSの書き込みによって受ける被害が増えています。

ネットの場合は匿名で書き込むことができたり、「相手にこの書き込みが届く可能性は低いだろう」と思ってしまったりして、つい気軽に相手を中傷する内容を書き込んでしまいがちです。

ネットやSNSでの書き込みによる被害は年々増加しており、その対策がいろいろとおこなわれていますが、その中の一つとして「発信者情報開示請求」があります。

発信者情報開示請求では、自分に対する不利益な書き込みを書いた人、つまり「発信者」の情報を裁判を通して開示してもらい、誰が書きこんだのかを特定することが可能となります。
発信者を特定することで相手から謝罪をしてもらったり、慰謝料の支払いを法に基づいて命じることができるようになります。

悪質すぎる誹謗中傷に立ち向かう一つの手段だホ

開示請求ができる条件

しかし、ネットやSNSの書き込みでいくら不利益を被ったとはいえ、発信者側の人権や表現の自由の観点から、誰もがすぐに開示請求をおこなえるわけではありません。開示請求をするためには複数の条件が求められますが、中でも特に以下の2つの条件が重要となります。

①権利侵害が明白であること
②損害賠償請求のために相手方の特定が必要不可欠であること

詳しく見ていきましょう。

権利侵害が明白であること

「権利侵害」が「明白である」とはすなわち、「自分の名誉や信用が毀損され、さらにその行為を正当化する理由もない」という意味です。「明白である」という点がここではポイントとなっており、誰が見ても「それは権利侵害だ」と言える状態を求めます。

例えば、「Fさんは前科者である」という虚偽の告発があった場合、Fさんはその虚偽の告発のせいであらゆる批判・非難を浴び、日常生活にも支障が出るほどでしょう。この場合は、権利の侵害が明白であるという要件を満たすと考えられます。

しかし、例えばFさんが幼児に対するつきまといなどで度々逮捕されていた過去があるにも関わらず小学校の教師になった場合などは、同じく「Fさんは前科者である」という告発であっても意味が変わってきますよね。

この場合は、Fさんとしては告発により名誉が毀損されてはいますが、その告発は社会的に見て、児童の安全確保などの観点から正当化される見込みがあり、Fさんが情報開示請求をしても棄却される可能性が高くなります。

損害賠償請求のために相手方の特定が必要不可欠であること

私たちには表現の自由が憲法上で規定されているので、基本的には何を言おうが何を投稿しようが自由です。そのため、発信者情報開示請求にあたっても、この権利は最大限守られる必要があります。

誰かの書き込みによって自分が大きな不利益を被ったとしても、発信者にもまた人権がある、という立場に基づき、みだりに発信者の情報を開示することはできないという前提があります。

しかし、誹謗中傷の程度がひどく、損害賠償請求や投稿の削除を発信者側へ依頼する必要があると認められた場合、匿名での書き込みでは誰にその請求・依頼をしたらいいか分かりません。

この場合に初めて、相手の情報開示が認められます。「相手は自分の個人情報をさらしたのに、何で自分は相手の情報を知っちゃダメなの?!」と憤慨したくなる気持ちも分かりますが、発信者の情報が被害者の信用・名誉を取り戻すために適切に活用できる場合のみ、相手方の情報開示が承諾されます。

どういう状況であれ、相手の人権も考慮する必要があるんだホ…

誹謗中傷に悩んでいるなら早めにご相談を。

どんな事情があれ、相手をけなしたり侮辱する発言は許されるものではありません。「軽い悪口程度だし相談するほどでもないか…」と思っていると、どんどん誹謗中傷の内容がエスカレートしてしまう可能性もあります。

弁護士に頼ることは恥ずかしいことでも間違いでも、大ごとでもありません。一人で抱え込まずにまずは相談から。あなたの健やかな毎日のためにぜひ弁護士を頼ってみてください。

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ふくろう情報局 編集部

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プロスパイア法律事務所

光股 知裕

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